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高静水圧処理による環境負荷の少ない微細構造の洗浄方法に関する研究

  2014-2016年 科学研究費補助金 基盤研究C 課題番号 2340079

微細構造に付着した汚れを高静水圧処理で密閉容器内で効率よく除去する。洗浄対象物を洗浄液に浸けて静水圧で加圧することで通常の条件では浸透しにくい複雑で微細構造でも洗浄液を浸透させることが可能であり非常に高い洗浄効率が期待される。高圧では疎水性相互作用が減少するため疎水性(油等)が取れやすくなる。ナノプリント用モールド(金型)や半導体ウエハーの微細構造洗浄には環境負荷の大きい強酸・強アルカリ・有機溶媒が広く用いられているが十分な効果は得られていない。そこで、洗浄液を回収しやすい密閉系で環境負荷のない水等を洗浄液として用い、高静水圧処理による微細構造を効率よく洗浄条件の確立とメカニズムの解明を行う事を目的とする。

 

2016年度 研究経過

(1)常圧での至適浸透時間の検討

常圧・50℃で樹脂をフェノール溶液に浸漬したとどれくらいの時間でダメージを受けるか10時間まで詳細に調べた。その結果、形状、重量変化、硬度ともに約90分までは時間と共に変化するがそれ以上10時間まではほぼ変化が観測されなかった。従って、常圧で浸漬する時間は2時間が妥当であることが示唆された。

 

(2)UV硬化樹脂付着モールドの除去実験結果

①高静水圧処理を行わない常圧浸漬10および20時間処理、②これまで行ってきた常圧浸漬15分間の後に加圧保持5分間の繰り返しを10回、③今回得られた至適条件の常圧浸漬2時間の後に加圧保持5分間を10回の条件でホール、ドット、ラインパターンのモールドに付着したUV硬化樹脂の除去実験を行った。その結果、①の処理で50~60%、②の処理で50~80%、③の処理では86~96%(一部再付着と考えられる樹脂が観測されて100%とはならなかった)の樹脂除去率を示した。従って、全パターンにおいて、③常圧浸漬2時間の後に加圧保持5分間を10回繰り返すことで、非常に効果的に付着樹脂を除去できることが示されたと共に提案した効率的樹脂除去メカニズムが妥当であることが示唆された。

(3)高静水圧処理による効果的樹脂除去のメカニズムのモデル

​3年の研究結果から以下の除去メカニズムのモデルを提案することができた。

 

2015年度 研究経過

 

これまでの結果で分かったこと

          〇UV硬化樹脂は高静水圧処理で効率的に除去できる

          〇処理に用いる静水圧が高いほど多くの付着樹脂を除去できる

          〇加圧時間が長ければ単純に多くの樹脂を除去できるわけではない。

          〇加圧減圧を繰り返した方が多くの樹脂を除去できる。

          〇洗浄液はフェノールが良い

          〇フェノール濃度が高く、温度も高い方がより効率的に除去できる。

 

UV硬化樹脂の除去の一つの方法としての超音波洗浄が考えられるが超音波処理を行うとモールドを壊してしまう危険性があるといわれている。高静水圧処理が有利な理由としてこのようにモールドを壊す危険性が少ない可能性が高いことを上げてきた。実際にこれまでの実験において何度も高静水圧処理を繰り返してもモールドが壊れることは観測されなかった。一方、実験器具洗浄用の市販の超音波洗浄機で処理してみた。モールドが側面等に当たって破損することを避けるためにモールドをシリコンチューブに入れて、しかも内径を少しモールドの幅より小さめにすることで固定し、壁等に当たって破損しないように工夫して実験を行った結果、モールドの一部の破損が観測された。したがって、今回用いたモールドにおいても超音波処理では洗浄に超音波を用いると破損を与える可能性が高いことが示唆された。

 

以上の結果をもとに静水圧処理によるモールドに付着したUV硬化樹脂の除去メカニズムの解明を試みた

 

(1)フェノールのUV硬化樹脂への影響

 常圧でUV硬化樹脂を種々のフェノール濃度のエタノール溶液に浸漬し溶解性、浸漬前後の重量変化、浸漬後の硬度・形状変化を調べることでフェノールのUV硬化樹脂への影響を見た。フェノールは水に溶解しないためにフェノール濃度を系統的に変えるため溶解することができるエタノールを用いた。UV硬化樹脂はUV-NIL専用のPAK-01を用い、それを型に入れて紫外線ランプで硬化させたものを1cm角に切り、50℃・3 mlの0、20、40、60、80、100 w/v%フェノール/エタノール溶液に 10時間浸漬させた。その後取り出し、表面をエタノールで洗い流して表面に付着したフェノールを洗い流した後に50℃の恒温器中で約一晩乾燥させて浸漬前の重量との比較、形状の観察および硬度測定を行った。また、浸漬後の浸漬液の吸収スペクトルを測定し、樹脂が溶解したかどうか調べた。まず、樹脂の形状を観察した結果、フェノール濃度が高くなるに伴い、樹脂のひび割れや破片状および細かい粒状になることがわかった。また、浸漬前の樹脂ブロックの硬度は75であったのに対し、0、20、40、60、80、100 w/v%の各フェノール/エタノール溶液に浸漬後はそれぞれ67、57、56、63、50、45に減少し、フェノール濃度が高いほど硬度が低下することが分かった。浸漬前後の樹脂の重量を比較するとフェノール濃度が高いほど増加する傾向が見られ100%フェノールで浸漬後に最大9%程度増加することが分かった。一方、浸漬溶液の吸収スペクトルにおいて樹脂のピークは観測されず溶解していたとしても吸収スペクトルの検出限界以下の非常に微量である事が示唆された。以上の結果、常圧において樹脂はフェノール/エタノール溶液には溶解しない(これまでの結果で様々な溶液を試したがフェノールより効果的な浸漬液は無かった)。しかし、フェノール濃度が高いほど浸漬液が樹脂内部に浸透し樹脂をもろくする効果がある事が明らかとなった。

 次に、80 w/v%フェノール/エタノール溶液(20~50℃において溶液状態でしかも濃度依存実験から除去効果高かった)において浸漬温度(20、30、40、50 ℃)の影響を調べた。樹脂の形状は50 ℃以下ではひび割れや破片状や細かい粒状にならないことが分かった。さらに、浸漬前後の樹脂の有意な重量変化も50℃以下では観測されなかった。従って、温度が50℃以上でないと浸漬液が樹脂内部に浸透せずダメージも与えにくいことが明らかとなった。

 

(2)高圧下でのフェノール溶液のUV硬化樹脂への影響

400 MPa、50 ℃、3 mlの80 w/v%フェノール/エタノール溶液中に浸漬10時間という条件で実験を行い、常圧の結果と比較した。その結果、常圧では樹脂のひび割れや破片状および細かい粒状が観測されたのに対して形状の変化は少なくとも見た目では観測されなかった。硬度を調べてみると浸漬前の樹脂ブロックが78であったのに対して浸漬後は72とわずかに減少したのみでこれも常圧での45といった値に比べて非常に高い硬度を維持していることがわかった。さらに、浸漬前後の樹脂の重量を比較した結果、400 MPaで浸漬後は数 %増加したことからわずかに浸漬液が樹脂に浸透したことが示唆された。

 

(3)モールドに付着したUV硬化樹脂の除去

 これまでの結果から常圧より高圧、高圧でも単に加圧した状態で長時間放置するより加圧(加圧状態で5分)減圧(常圧で15分放置)を繰り返した方がより効率である事が示されている。これまでの結果のみであれば単に高静水圧で樹脂とモールドの隙間に効率的に入っていくとともに樹脂にフェノールが浸透しもろくなる、さらに加減圧の繰り返しの物理的な力で剥ぎ取り効果が働くことで除去できたと考えていた。特に高圧で長時間おいても効果が少なかったのは物理的な作用の回数が少ないのが主原因と考えていたがそうではなく常圧のほうが単に樹脂へのダメージという点では影響が大きい可能性が高いことが本年度の実験結果より示唆された。つまり、これまでの結果を総合すると高圧処理で樹脂とモールドの隙間に効率的に洗浄液が浸透する。常圧では効率的に樹脂の中にフェノールが浸透し、樹脂の膨潤やダメージを与える。さらにこのような状態の樹脂に加圧減圧を繰り返すことでモールドから樹脂を剥ぎ取りやすくなる。また、常圧で膨潤・ダメージを受けた状態の樹脂を加圧することで圧縮される。この加圧減圧を繰り返すと樹脂に対してより効率的にダメージを与えることができはがれやすくなっているという除去メカニズムが考えられた。さらにモールドから除去される過程の樹脂を観察してみると、特にライン状の微細構造においてよく観察できたがラインに沿った長い樹脂がきれいに浮いてきてほかの除去された樹脂と絡み合って固まりとなっていることが分かった。したがって、観察結果からもフェノールで樹脂が溶解したのではなくモールドと樹脂の接着性を弱めて除去していることが考えられ前述のメカニズムを示唆していると考えられる。

 

(4)今後の予定

加圧減圧の繰り返し実験において常圧15分加圧5分の組み合わせであったがこの常圧においていく時間が除去効率に影響してくる可能性がある。そこでこの時間を変化させて除去率にどのような影響を与えるか調べる。

さらに、熱硬化樹脂においてもこれまでの結果をもとにどのようなメカニズムで除去できたのか再度検討して静水圧処理によるモールドに付着した樹脂の効率的除去条件およびメカニズムに関してまとめる。

 

 

2014年度の研究経過概要

 

モールドはアスペクト比1(高さあるいは深さ10 μm、幅あるいは直径10 μm)のライン、ドット、ホールパターンが刻まれた材質がSiの協同インターナショナル製の試験用のモールドを用いて付着樹脂の除去実験を行った

 

(1)モールドに付着したアクリル樹脂の除去

洗浄液を吸引した程度では人体に悪影響のないエタノールを用いて常圧で25および45℃での除去率の時間変化を調べた結果、100分までは全く除去できず8時間たっても10~30%と非常に低かった。また、400 MPaで処理すると25℃では18サイクル(、1サイクルは加圧5分、減圧15分)でも25%以下であった。一方、温度を上げて45℃では12サイクルで90%以上の非常に高い除去率を示した。そこで、PMMAを溶かすことができ樹脂が付着したモールドを作製するときに用いられ、樹脂の除去には適した洗浄液の一つと考えられる酢酸エチルを洗浄液に用いて常圧で25および45℃で浸漬時間と除去率の関係を調べた。その結果、25および45℃とも浸漬60分程度で一定値を示し、パターンにより除去率の違いはあるが約60~80%程度除去できたがまだ十分ではなかった。除去率にばらつきがあるのは樹脂を付着させるときに毎回、全く同じ強さ・厚みでつけることは難しく、その結果としてばらついたと考えられる。一方、400 MPaで加圧すると加圧・減圧のサイクルを1サイクルするだけでも25℃で約70~90%、45℃では約80~95%、さらに45℃、400 MPaでは10サイクルでどのパターンでも99%以上除去できることが分かった。 以上の結果、酢酸エチルおよびエタノールを洗浄液として用いると25℃・常圧では十分な除去はできなかったが高温45℃・高圧400 MPaの処理でほぼ100%近い除去率が得られ、酢酸エチルで45℃・400 MPaの条件が短時間で効率よく除去できるということが示唆された。

 

(2)モールドに付着したUV硬化樹脂の除去

フェノールをエタノールに溶解させた高いフェノール濃度の洗浄液を用いて、除去実験を行った。まず比較的効率的に除去できる事が予備実験から示唆されているフェノール飽和(8 w/v%)水溶液で常圧・50℃において10時間浸漬した。その結果、ドットパターンにおいて除去率は約80%程度となったが、ホールおよびラインパターンにおいて除去率は約10%~30%程度となった。次に、温度を60℃に上げて10時間浸漬した結果では、ホールパターンにおいては約90%程度まで除去率が上がったが、ラインパターンにおいては30%程度のままだった。さらにフェノール濃度を高めるためにエタノールに溶解させて41 w/v%フェノールエタノール溶液で洗浄を試みた。常圧・45℃において浸漬4時間した結果、ラインパターンにおいて除去率が45%程度に上がることが分かった。最後にさらなる除去を行うため400 MPaの加圧処理を45℃41w/v%フェノールエタノール溶液において行った。その結果ラインパターンにおいても90%以上の除去に成功した。以上の結果、現状では高温、高フェノール溶液中で高静水圧処理がUV硬化樹脂の除去に有効であることが示唆された。

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